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ネタ帳
別にいいのだと思っていた。
この長く永い永久の命をすごすのに、
魂をけずる行為さえ私には暇潰しに思えた。
自分以外の生命そのものにどこか疎外感を感じずにはいられなかった。
だから[あれら]と[私]は違うものなのだ と思うことで
私は
*****
それは少し肌寒い日だった。
私は父からの預かりものをエルロンド卿に渡すために裂け谷へ来ていた。
いつもどおりならば、私が来たという報せを聞きエステルが飛んでくる
が
今日はなぜだか遅かった。
少し顔色もわるく見える。
しかし本人は義理父の手前つとめて明るく振る舞っているようだった。
エルロンド卿は大変心配性だから。
だから私もあえて口には出さずにいた。
あの子がそう気遣っているなら今ここで言うまい と。
別に気に止めなければ気にならない程のささいな変化。
エルロンド卿がその場を去った後、
「どうした?」と小さく尋ねたが、エステルは顔を横に振るだけだった。
私を避けているようにもみえた。
苛立ちと共に少しこころが傷んだ。
****
ガタン。
その夜。私は本を読んでいた。
静かな空気を破り去るようにドアをあける音がする。
さして驚きもせず本から扉へ目線をうつした。
「エステル?」
扉を開け、入って来たのは昼間どこか調子の悪いようだった、
まだ幼さが残る人の子だった。
が、昼間に増して顔色が悪いように見える。
なにかに怯えているようにカタカタと震えている。
尋常ではないその様子に私は彼にかけよった。
肩に手を置いて覗きこんでみる。
「やはり…何かあったのかい?話して───」
瞬間
私の視界は反転した
背中にはつめたい床の感触がある。
目の前…というか私の頭上には、
さっきから苦しそうに顔を歪めている子ども。
とつぜんの衝撃に見開いた目を優しく細める。
「エステル…重いよ…」
頭をなでる。
突然なにかが弾けたようにエステルは大きな声で言い出した。
「俺は────どうしたらいいか判らない…!!」
「どうしたら──っ」
「だってこんな…きっと俺はオカシイんだ──」
「エステル…!まってくれ…おちつこう…私は全て聞くから…」
あまりにも切実に訴える彼をとりあえず落ち着かせようと頭を抱えた。
エステルは一瞬体をびくつかせた。
声は、ぴたりとやんだ。
しかしエステルの体の震えはまだ少し残っている。
「エ───…」
「───あなたがすきだ」
「 あなたを ダ キタイ 」
ゆっくりと。
頭を抱えていた腕を放す。
見開いた目をおさえるようにして片腕を自分の胸元に寄せた。
「それが……君が今日私を避けていた原因…?」
彼は俯いたままそれ以上なにも喋らなかった。
ひどくさめた感情の自分がいる。
目の前の人の子は、きっと自分が異常なのではないかと相当な時間くるしんだのだろう。
その原因が私なら
それだけで
この子が
わらってくれる なら
「いいよ…もう悩まなくていいんだ」
「私をあげる───だから わらって──」
彼の額にくちづけた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | 指輪
いずれ来るかもしれない死はこわくはない
こわいのは
まだ泣いている エステルをおいていくことになる
私は
それがこわいよ
****
「私でいいならかわりになろうか?」
いま なにを言った ?
鈴をころがすよりも かるく
波紋をつくるように たやすく
いったいこのエルフは何を口走ったのだろう
「何を……いって…」
「私で不足なら…別に」
「違う!そうではない!
そうでは……―」
おもわず肩に掴み掛かった手から力がズルズルとぬける。
ふとうまれた疑問。
「君は―――誰にでもそうやって自分をさしだすのか?」
自分はいまきっとひどい顔をしている。
信じられないという顔をしている。
この人の寛大さに甘えていたあの頃の顔をしている。
きっと
「…………。あなたでなければ言いはしない」
きっと
「―――――…。」
手をのばす。
しずかに 手を
為されるがままレゴラスは目をとじた。
今この手の中にあるのは
あの時あれほど欲していたものなのに
みえなくなる
なにも
こわしたい
この人の感情も気高さも
むかしから知ってる総てを
わたしが
でも どうして?
ふれることが
こんなにもこわい
なんて
今更 矛盾した思いに気がついて
それでも
あぁ
おしつぶした思いをひろいあつめるぐらい
こころが裂けて悲鳴(コエ)をあげるぐらい
どうしても
どうしようもなく
しろい こころで
あなたが すきだ 。
「やめてくれ…お願い だから」
「でも…」
「いいんだ…もういいから…いいから――だから―…
ただ そばにいてくれ」
目の前のこの人は
月を背にやはりキレイで
私の
消え入りそうなほそいコエに
やっぱり
消えてしまいそうなぐらい
キレイにほほえんだ。
「しょうがないね」
その笑顔があまりにつきあかりと闇にとけて
君が消えないようにと
うでをつかんだ。
****
「君は―――誰にでもそうやって自分をさしだすのか?」
言葉につまった。
自分はきっと
それで誰かのこころが一瞬でもまぎれるのなら
たったそれだけで
と 。
きっと
あなたでなくても
この言葉が喉を通っただろう。
でも
「…………。あなたでなければ言いはしない」
泣きそうな
あの頃となんら変わりない独りの人間
彼は
もし私が死んだら
なくのだろうか
もし彼が死んだら
私は
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | 指輪
バタバタと裂け谷の宮殿に慌ただしい音がひびく。
エルロンドが「またか…」と
順に近くなって来る足音を聞き溜め息をもらした。
「君が来るとあの子はいつもこうだ」
[あの子]がああなってしまう原因の[君]は
まるで他人事のように微笑んだ
***
「レゴラス!」
扉に勢いよく手をつく音。
そこは大きく広がる裂け谷の自然が一望出来るテラスにつづく扉だ。
そよ風と小鳥の囀りと共に静かな空間がながれる。
木の葉が舞い落ちる情景に溶け込むように形作られたソファー。
その上に寄り添うようにして自分が息切れつつ
走って来た[理由]が横たわっていた。
「レゴラス寝ているの?」
長旅だったのだ疲れているのだろう。
少し乱れた長い髪をととのえる。
指に絡ませては放して。
本当にこのエルフはキレイだ。そう思いながら
髪の毛の一本一本すら違う生きもの。
こんなにもキレイだと思う。
同時に
あまりにも消えてしまいそうにはかないと。
「そろそろ起きたらどうだ?」
含み笑いと苦笑を織り交ぜ髪に口付けると
くすくすと笑い声が聞こえる
「やはりばれた?」
「私に通用すると思ったのか」
お互い目を見合わせ笑いあうと
「久しぶり」と笑った。
***
エルロンドが一連のエステルの行動を影で盗み見て、
「あの子ももうおとなか…」と義父親の涙をひそかに流したのはまた別の話。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | 指輪
バ ン 。
随分と重々しい音だ。
めいっぱい開かれたそれは勢いあまって壁にぶつかった。
壁に穴が空いたらどうしてくれんだ。
それにしても
なんてタイミングなんだろう。
俺の部屋の扉は今日二回目の悲鳴を上げた。
今度のは
ほんとうの ほんとうに
悲鳴のような音だった。
その大きな音に
ビックリして 大きく開かれたドアを凝視する。
「 あぁ ・・・ ・ 。 渋沢先輩 」
静かに微笑んで首を傾げた。
先輩の顔色を見れば
どれだけの事を知ってここに来たのかなんてすぐ分かった。
それでも努めて 静かに
静かに 微笑んで
渋沢先輩の腕は、開けたときの勢いとは裏腹に
俺を見たままゆっくり 部屋の扉を閉めた。
「今日は遅かったですね。 」
言いながら自分の着ているパーカーの裾に手をかける。
勢いよく部屋に入ってきた先輩に
半分ぐらい脱ぎかけた所でそれを一気に下ろされた。
俺の腕は不自然な所で止まったまま
目の前の人を見上げた。
「 三上に 何した 」
俺の服の裾は千切れんばかりに捕まれている。
今俺がこの人を見ている目線は
酷く冷めているか呆れているかのどちらかだろう。
なんとも捻りのない
予想通りの反応だ。
怒っている顔と
なんの感情も込めていない顔
多分誰もこの人のそんな顔見たこと無い
(見たいとも思わないだろうけど)
俺は そんな顔しか もう 思い出せないぐらい
この人の そういう表情を見てきた
俺しか知らない 先輩
なんだろう? この 変に偏った 優越感
「 先輩がいっつも俺にしてるような事を 」
にこやかに言い放った
と 同時に
頬に鋭い痛みが走る。
俺はその反動で勉強机に思いっ切り体当たりした。
反射的に体を庇ってぶつけた肘の痛みで頭がグラつく。
あぁ 人殴ったりとか
この人数えるぐらいしかしたこと無いんだろうな。
そんな特別が 少し 嬉しい とか
思ってる俺は 変態かな。
先輩は 怒りに声も言葉にならないようだった。
唇を 跡が付くぐらい噛みしめて
ただただ 俺を殴った腕だけが口惜しそうに震えている。
「可愛かったなぁ 三上先輩。」
そんな先輩に 俺は容赦ない
貴方を あおるような言葉 を
吐き捨てて
「 声我慢しすぎて途中で涙目になっちゃって
それが余計 男あおるんだって知ってるんすかね?先輩はー 」
もっと そういう目で 唇で 顔で 俺を 見て
俺を 憎んで
俺を 拒んで
俺がもう二度と立てなくなるまで
俺 を
「 先輩が 好きになっちゃうのも分かりますよ 」
俺の こころ を ころして
目の前を何かが横切った気がした
モノが投げつけられて 破裂する衝撃 と 音。
粉々になってしまったものたちは
俺の机の上に起きっぱなしだった
コップ とか ペンケース とか
ガラス製のペン立てとか
そういうモノが
次々と俺の顔すれすれに投げられた。
投げつけられたそれは壁や窓にあたり
粉々になって部屋中に広がる。
窓に当たった硝子は 耳に痛い感じの ひびが入った音がした。
俺の背中やらなにやらにも少しあたった。
何やらくすぐったいくらいの痛み。
不思議なくらい 懼れはない 。
殴られた頬を片手で押さえ
倒れた不安定な体を肘で支えながら
無気力に先輩を見上げた。
眩しいモノを みているようだ
まぼろしでも みているようだ っ た
「 俺 は -----っ 俺が お前を抱いたのは っ 」
先輩が 苦しそうに顔を歪めて
俺を殴った方じゃない方の腕が何かくしゃくしゃになったものを掴んでる
俺は 信じられないものを見たような目で
もう一度先輩を見上げた 瞬間
その掴んでいたモノが俺の顔に投げつけられた。
「 ---っまつぶし でも 同情で も 」
おかしいなぁ こんな顔 知らない
俺 この人の こんな顔 しらないよ
罵られて ボッコボコに殴られることを予想していた俺の体は
逆に力を失って 竦んでしまった。
とまどった 顔は 口が半開きだ。
金魚の様に ぱくぱくと酸素を欲しがっている。
思いが言葉にならないことが
すごくもどかしいでしょう?
どんな言葉で俺を罵るつもりなの
罵声や嘲笑を浴びせられることが甘い誘惑みたいだ
そんな 泣きそうな顔 いらないんだ
早く ねぇ
そんな顔しないで
言葉に出来なかった思いは
ついには俺に届くことはなくて
小さく舌打ちをして 先輩は部屋を出ていった。
呆然と机に倒れ込んでいた俺の体が
最後の力も失い膝が折れて
散らばった硝子の上にへたり込む。
「 『 同情でも---』 ・・・ ・ なんだよ 」
紡がれなかった言葉が
俺の中で響いている。
でも もう それは なんの意味もないんだ
ヒビの入った半分開いているガラス窓を何気なく見上げた。
夕焼けがほんとうにキレイだった。
写真にとっておきたいと思った けど
思うように動かない。
何がって、カラダ。だから
この瞳にこの胸に
残しておこうと想ったんだ。
薄いカーテンの向こうから微風を感じて。
寒い というよりは 涼しい。
気持ちいい というよりは 忌々しい。
どこまでいつまで
ここにいればいいんだろう ・・・
あなたは帰ってこないって
あの言葉の続きなんて もう一生聞けないって
俺しってるのになぁ ・ ・ ・
パキ。
「 ったー・ ・・・・・ 」
手をついた先にはガラスがあった。
鈍くて 細かい 痛み。
じわじわと広がる紅を
俺は懐かしく感じる。
そんな自分に笑えた。
嘲笑った。
「 欲しがったのは 俺だったんだけどなぁ ・・・ ・ 」
切れてしまった指先を見つめて
独り言のように ぽつりと そう呟く。
そう
何もかも俺が望んだことだった
好きになって欲しい とか
愛されたい とか
愛して欲しい とか
愛したい だとか
俺
馬鹿みたいだ
望んだものは もう見えない
欲張りな俺が 心まで望んでしまった それが
どれだけ
欲張りな俺の手には
もう やさしさだって 残ってない んじゃないの
違う 残ってないんだ
「誠二・・ ・ なんだよコレ ・・・・・ 」
喉が ヒュゥ って 鳴った 。
顔を見ただけで 泣きそうになった
なんで?
「竹巳 ・・・・・ 帰ってくるの 早いよぉ 」
部屋中硝子の破片が飛び散っているこの光景は
普通に帰ってきた竹巳にとっては結構シビアだなぁ とか
呑気なことが頭に浮かんだ。
この後 俺は、硝子を片づけて 切れた指に絆創膏貼って、 腫れた頬にもガーゼを貼って
友だちと 喧嘩したぁー って
甘える予定だったんだけど
しょうがないなぁ って
分かってないんだか
分かってても何も言わないんだか
分からないけど
また怪我したのかよ 馬鹿だなぁ って
頭をなでて-----
「お前・・・・ ・ こんな--・・ ・ 」
先輩に殴られた頬に 少し震えた指が触れた。
俺は 竹巳の顔を見れなかった。
やっぱりお前は なにも聞かないんだなぁ
ちょっと 聞いて欲しかったな
そしたら 馬鹿みたいに 明るく
馬鹿みたいな話が出きるのに
笑ってお前に
「ふられちったよー」
って言えたのにな。
「 ねぇ 竹巳ぃー 見て これー 」
笑って 笑って
床に落ちている しわしわの モノを
竹巳が見える位置までもってく
「・・・・なに? 」
いつもより ずっと優しく声を出す竹巳を
やっぱり俺はまだ見れない。
その優しさがいまは 傷口にいたい よ
俯いたまま 口だけが弧を描く。
「湿布だよ? 湿布。 渋沢先輩がねー
さっき 叩きつけてった の 」
あ やばい
「 おっかしいよねー 湿布とかさぁ 保健室から大量にかっぱらってきたから要らないのに さぁー 」
やばい
やばい
やばい
「 つーか 心配とか してくれた の かなぁ 」
どうしよう
泣きそうだよ
「こんな もの さぁ 」
うれしいとか 思っちゃいけないんだ
好きとか 思っちゃいけないのに
全部壊そうって決めたんだ だから
いまさら こんなモノで
こんな
「渋沢先輩にとって お前は大事な後輩だからなぁ 」
は っと顔を上げる。
見ないようにしていた竹巳と目が合ってしまった。
めいっぱい 笑ってる 竹巳
頬を両手で覆われて
目尻は 少し 濡れてた
「 そりゃ 心配もするよ お前 馬鹿だもん 」
こらえてたものが一気にあふれ出す
ハラハラと 熱いモノがこみ上げて
しゃくり上げて 息が出来ないぐらい 止まらない。
顔がくしゃくしゃになるまで 笑 う
笑った
「 そうかな ぁ 」
「 そーだろ 」
途切れ途切れに 云った 言葉は
ちゃんと 伝わったかな
俺 先輩が 好きだったよ
その みんなをまとめ上げている人望 だとか
ゴールキーパー特有の大きくてごつごつした手 だとか
あったかくって やさしい 目 だとか
落ち着いた 音楽みたいなしゃべる 声 だとか
怒った 顔も
虫けらでも見るように俺を見下した 顔も
泣きそうな
悔しそうな
感情を持て余した 顔も
三上先輩を好きな 先輩も
好きだったよ。
あなたと
あなたの隣りにいた 時間が
「 俺 ちゃんと 好きだったよ 」
愛していました。
「 すごく すごく 好 」
君の袖に縋り付き
胸に顔を押し当てて泣いている そのすがたを
お願いです 君だけは
どうか 憶えていて
俺が 馬鹿だったこと
俺は 間違ってはいなかった と 君だけは
俺の愚かさを 赦さないで
もう沈んでしまった夕陽の空からふく風が
体中の傷に しみて
ただ 竹巳のシャツの匂いだけが
俺の こころを なでてた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
部活も終わった
放課後
ズカズカと俺は寮のろうかを不機嫌丸出しで歩く。
途中でときどき出逢う下級生は、
俺の顔を見るやいなや隠れるようにして挨拶してくる。
それが俺のイライラをいっそう強くした。
ある部屋の扉の前でとまる。
すぅ っと深呼吸して気持ちを落ち着けた。
ガチャリ と重たくドアが開いた。
「あれ?三上先輩?」
間抜けな声を出して
これまた間抜けな顔で出迎えたのは藤代だった。
俺の訪問はほんとうに予想外だったようで
ベットの上で雑誌を読んでいた。
「お前・・・・・・足怪我したって・・・」
「あーーー。大したことないっすよー軽い捻挫です!捻挫!」
それを聞いた瞬間
がくーーーーーーーーーーっと膝の力が抜ける。
俺は軽くその場に座り込んだ。
「おま・・・・・・ほんと ・・・ あーー・・・ 」
馬鹿馬鹿しすぎて怒鳴る気も起きない。
「え?何々?俺今日体育の授業で捻挫したから部活でれないって伝えましたけどー」
「いや ・・・・ うん まぁ 黙れ・・・ 」
よくある話だな。
足を怪我したとは聞いたけど軽い捻挫だなんて聞いてない。
というか俺の所まで伝わってこなかった。
俺はただ藤代が来ない理由を下級生に尋ねると
どうも足を怪我したようだ
とか
包帯を巻いてた
とか
かなり派手にやってた
とか
そんな曖昧な返事しか来ず
誰に聞いた?って聞くと
さぁ?
としか帰ってこない始末。
あの藤代といっつも一緒にいる奴は今日めずらしく休みだったし。
俺はゆらゆらする不安をどうにかするため
わざわざ藤代の部屋まで自分で出向いたのだ。
「しんじらんねーなお前・・・。仮にもサッカー部の人間が授業でそんなちんけな怪我すんなよ・・・」
そう言いながら藤代のいるベットの方へと移動した。
軋む音とともにそこに腰掛けると
藤代は少し姿勢を正して雑誌を脇に置いた。
「ちょっと 色々考えてたらぼけーっとしちゃって~」
へらへら笑う。
あぁ もう ほんとしょうがねぇなぁ こいつ。
俺もなんでこんな奴の心配してんのかな。
「何考えることがあんだよお前」
俺も皮肉っぽくへらへら笑いながら
軽く
軽く その言葉を発してしまった
あとで 死ぬほど後悔することも 知らないで
「三上先輩をどうやって犯そうかなーー と思って。 」
いつものように 鈴を振るような声で
目の前のこいつは にっこり 微笑んだ。
笑いかけた顔が ひきつる。
「 はぁ? お 前なぁー。俺を犯そうなんて100万年はや」
こおった空気が いたい
なんだこれ
なんだこれ
いま こいつ 笑顔で なに言った ?
「あーそういう反応ですか~。いや、いたってかなり本気ですよ。これでも」
自分の膝に頬杖をついて
目をほそめて笑う。
まるでどうってことないような声で快活に喋る。
こわい
だれだ これ
「な に ・・・ ・ 言って」
「だって渋沢先輩 先輩のこと大好きなんですもん」
腕をひっぱられて
俺の視界が反転する
ベットのスプリングが激しく歪んだ。
こわい
こわくて
声もでない
「それにね」
また
困ったように笑いながら
「 俺も 先輩のこと大好きなんだよね」
俺は
目を 見開く
「 先輩がすき。 でも 俺は渋沢先輩が一番好き。
なのに
先輩の一番も 渋沢先輩の一番も
俺じゃない なんて 」
ぽた
ぽた
生温かいしずくが
ほほに伝う
「 俺 たえられないよぉ そんなの って ---- こんなことって さぁ 」
押さえつけられている腕に爪が食い込む。
鈍い痛みに顔をしかめるけど
俺は
「 だから 壊すんだ ぜんぶ壊すんだ
ねぇ?
わかるでしょ? 先輩 」
俺 は
なんにもわかってないよ 藤代
おれは なんにも わかってなかっ た
お前の痛みとか
闇とか
俺の些細な行動も
俺がお前と過ごしてた時間も
お前をズタズタにする材料にすぎなかったんだ
そうだったんだ
お前の笑った顔がみたくて
そんな自分悔しいから認めたくなかったけど
昼休み
他のダチよりも優先して会ってたあの瞬間も
お前にとっては 地獄 だったの ?
「 ・・・ いいよ。 お前の気がすむなら 壊せよ 」
その大きい目から次々とこぼれ落ちる涙を
頬を撫でるようにすくった。
泣きそうになる自分がいるけど
泣いてはいけない気がした
今は 俺が 強くなくてはいけないところだ
顔を不器用に歪めて 無理にでも笑って
唇を噛みしめる
藤代は俺が言葉を発した瞬間 ビクッと 体を震わせた。
涙はやっぱり止まることは なくて
ごめんなさい
ごめんなさい と
あいつは 俺に謝りつづけてた。
++***++
もうあたりが暗くなり始めた夕方。
廊下の窓から見えるそのオレンジと紫が混ざったいろ。
もう どこもかしこも痛いけど
いつもより酷く綺麗に感じる。
来るときには短く感じたこの廊下が
今はどこまでも続いてるような気がするなぁ
体が重い。
「三上・・・?」
聞き慣れた声に顔を正面に戻すと
キョトンとした顔の渋沢が立っていた。
なんだか凄く懐かしい 気がする
お前が
なつかしい
ゆっくりと 歩み寄って
肩に顔をうずめた。
軽く 渋沢に体重をあずける
「三上 ? どうかしたのか ・・・ ?」
やさしい声が聞こえるなぁ。
あぁ。 うん。
俺 この声がすきだ。
何にも言わなくても
抱きしめてくれるこの腕が好きだ。
わかっていても言わないでいてくれる
こいつが 好きだ。
いまは もう ただ
俺の体中 渋沢の匂いに染まればいいのに とか
そんな下らないことを思って
少し 泣いた 。
そうだなぁ もう あいつが
俺に笑いかけることは ないんだなぁ
そう考えると、
俺の頭はなんだか 後ろのあたりが
ガンガン鳴って
涙が とまらなかった
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
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