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2025.07.19 | Comments() | Trackback() |

箱庭3


君の心がここにあるという保証がいったい何処にあるというのだろうか




****


あれからレゴラスは何も変わりない。
それはむしろオカシイぐらい私達の関係は以前のままだ。
相変わらず私が夜中悪い夢を見たり不安にかられるとそばにいてくれる。
何度も抱いた。
レゴラス―もといエルフは元からそういう欲は薄い。
だからひどくそのことに冷めている感は否めないだろう。



「エステル?」


優しく呼び止める声の主を見つけるため振り返る。
寝起きのレゴラスは乱れた髪を手で直しながら歩み寄ってくる。


「今回はいつまでいられるんだ?」


私はとりあえず髪をととのえてやる事にした。




****


淡い月明りにぼんやりと目を覚ます。
薄いカーテンがひらひらと揺れていた。
窓があいているからだ。
俯せになっていた体を無理矢理おこしてみる。
肌寒く感じ、放ってあった薄手の毛布をまといベッドから降りた。



「眠れない…?」


バルコニーで月を見ながらぼーっとしていたエステルの隣りに立つ。
彼はふと気付いて私を少しだけ見下ろした。


「あぁ……起こしてしまったか?悪い事をした」


「いいよ別に」


毛布一枚だけを羽織った私を見て彼は苦笑した。


「…歌をうたってくれないか」


「 ……?え…」


「眠れないんだ」


突拍子もない物言いにしばし呆然とする。
ニヤっと笑った後私はエステルに軽々と持ち上げられた。
彼はバルコニーにある椅子に私を座らせ、腰に腕をまわして座り込んだ。
ちょうど膝枕をしているような感じだ。


「はやく」


いつまでも呆然としている私にエステルが催促してくる。
少しの期待がはいった声。


「しょうがないね…エステルは」


愛しさを添えて苦笑すると、小さく笑う声がした。


「リクエストは?」

「レゴラスの好きな歌」


「ずいぶん抽象的だね。いいの?」


「君が好きな歌は私も好きだ」


淡く笑い、様々な歌をうたった。
エルフの子守歌。婚礼の歌。
どれも優しくやわらかい歌。
風でなびく髪をなでながら歌いつづけた。
月明りを食べているかのように空を仰ぐ。



ふと




「……レゴラスは月みたいだ」


小さく聞こえる押し出されたような声。


「どういう意味?」


拗ねたような怒ったような口調で問う。


「いつも一人でそこにある」

「けして一人ではないのに」

「様々な惑星が消えても、ただ一人でありつづける」

「とても綺麗で──似ている」





私が 月?

それはきっとエステルの中の私なのだろう。
よくよく考えると、とても恥ずかしいその言葉。
でも、それはなんだかくすぐったいぐらいに嬉しい。


孤独な月。

前にもどこかで聞いた事がある。

───そう。吹き抜ける風のように人は死んでしまう。
人だけではなく。私達の種族以外は全てが、全てがいつかは。
いつかは



じゃあ







君もいつかは


私をおいていくね






















「レゴ………ラス…」


一つ一つ。

私の感情を彼に伝えるように冷めた光が頬をつたう。


「──────っ」



おさえきれない涙に顔を手で覆った。
エステルの──もう私と変わりない大きさの手が私の腕を掴む。
涙の向こうで優しく覗きこまれているのがわかった。


「すまない……―どうしたんだ?…エルフに涙を流させるなんて私はなんてことを」

「違う  もういいんだ」




「…もう いいんだよ」




「………なぜ…?」


苦渋に満ちた哀しい表情で私を見る。
やめて

そうだ。それは最初からわかりきっていた事だ






「……だって私は 君がいなくなっても 生きるんだろう─?」



止められない。言ってはいけないのに



「君がいなくなっても──私は1人で生きるんだ──」



それが宿命というやつだ



「だったら────もういいんだ 」



「君を 放すよ」




別にいいのだと思っていた。

この長く永い永久の命をすごすのに、
魂をけずる行為さえ私には暇潰しに思えた。

自分以外の生命そのものにどこか疎外感を感じずにはいられなかった。

だから[あれら]と[私]は違うものなのだ と思うことで



私は
















あわれんでいた の かもしれない










「 私は 独りでも生きて行くから」







どうか







それは去り行く運命にあるものに対する最大の嫌味だ。

永遠の命をもつ者の傲慢だ。


どうして「いつまでも一緒にいたい」などと言えるだろう














「─────。」


エステルは酷く傷ついた顔をうかべた。
本当にこの世の終わりでも見たかのような顔を。






目を見開いて息をのんで
思わず掴まれた腕を乱暴にふりはらう。


「ぁ───…ごめ───」



私は立上がり服を持つと逃げるようにして部屋から出た。
ドアをしめる間もなく。
行き場をうしなった扉が風にゆれるのを感じた。

壁にずるずる滑り落ちる
なにもかも

涙も体も心も思いも






ただ 君が好きで




思いを押しつぶしてもなお溢れる君に



泣いた。




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2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | 指輪

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