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2025.07.19 | Comments() | Trackback() |

ネタ帳
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2025.07.19 | Comments() | Trackback() |
頭よりも身体が先に動くのを感じた。
そうこういうのをなんと言ったっけ。反射神経?
俺は何も考えず少年の前に立ちはだかった。
俺はもう死んでいるというのに反射神経もくそもあるというのだろうか。
馬鹿な話だ。
そもそもこんな非凡な出来事をなぜだか俺は頭で理解している。どういうことなのか分からないが。とりあえず俺はここにいて、意識があって、そして考えている。
あぁ
思うだけで意識がちぎれそうだ。やめよう。
今俺にとって直視すべきは恐らく昨日の夜俺を後ろから殴った、とにかく訳の分からない殺人鬼が目の前にいるという事だ。
しかし、俺は 困惑した。
その殺人鬼はあまりにもあどけなさが残る
少年だった。
中学生ぐらいだろうか。
そこら辺にいそうでいなさそうな妙な雰囲気を醸し出しつつもやはりそこら辺にいるような。
とにかく ごく平凡な少年だったのだ。
「・・・・・・?」
言葉を出せず躊躇していると、殺人鬼は「鬱陶しい」が混じった顔で不思議そうに俺を見つめた。
そして何事も無かった風に目線をそらし俺の横を足早に過ぎて行く。
ビク っと身体が強張る。
うとうとしている時に無理矢理目覚めさせられた時のようなあの身体が引きつった感じ。
動けない。
何か言ってやりたいのに。
なんで
あぁでも聞こえないかもしれないなぁ。
なんだっけ。
あぁ そうだ
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・あれ?
「お前 俺が見えるの か?」
その言葉を聞き、さぞかし得体の知れない物を見る目つきで俺を一瞬見た後、殺人鬼はさらに歩くスピードをあげた。
聞こえている。
こいつには俺が見えるし声も聞こえるんだ
こんな馬鹿にした話ってあるか。
どうして―――。
どうしてこいつなんだ?
ただこの訳の分からない。あの世の行き方だって分からない浮遊霊みたいな状態から抜け出したくて
この機を逃したら俺は、俺はずっと
そんな縋るような思いで
そんな縋るような思いを押しつけなきゃいけない相手が
なんで
「待てって!俺幽霊なんだってば」
そう言って。かけより。
少年のからだに手を通してみせる。
「―――――っ」
その驚きとも恐怖とも戸惑いともとれない複雑な顔の殺人鬼を見て。
「俺 幽霊」発言は少しぶしつけだったかと反省した。
あと、少し笑ってしまった。
その反応がとてもとても普通で。普通すぎて
こんな奴に殺されたんだ
俺は
*
「本当に幽霊・・・?」
殺人鬼はさっきより多少少年らしい表情を浮かべながら、俺の身体に腕を通したり透かしたりしている。
なんだか慣れないその行動に気持ち悪さを感じながら漠然とした思いで彼を見ていた。
「あ――・・。本当。初めて見たよ。」
「こわくないのかお前。不気味 とか」
ふ っと。
少年は俺を見上げていた顔の角度を少し下げた。
滲み出ていたあどけなさが消える。
まるで
この少年にはフィルターがあるみたいだと思った。
「会ってみたかった。」
「え?」
「・・・本当だったんだ。そっか幽霊はいるのか」
少年は冷めた瞳のまま また俺の身体に掌をすかした。
何を確かめているのか。俺の身体に透けた腕を細く見つめてはやけに大人びて微笑む。
その容姿に見え隠れする中身との激しいギャップ。
直感的な予感が嫌にしみてくる。
人を簡単に判断しちゃいけないけど。
わかってる けど
あぁ。
どうしようかな。
俺
多分
こいつ嫌いじゃない
唐突に。少年は俺越しにどこかを見てマズそうな顔をした。
振り返ると彼の母親であるらしいさっきの女性が不振そうな顔でこちらをチラチラと見ている。
少年は自分にしか俺が見えていないこと、自分がいまとても怪しい行動をとっていることを悟ると慌ててまたマンションの玄関へ歩き始めた。
「こっち来て。何処から来たの? 行く 所 あるの?」
振り向きざま、気持ち小声で俺に冷たく言い放つ。
俺は 無言のまま足を少年の方へ動かした。
ひとつ 。 わかっていること。
そして何故だか俺にはわからないこと。
こいつは
こいつは俺を見てもなんの動揺もみせない。
言葉ひとつ乱さない。
つくっている訳じゃない。
それは 分かる
何故だ
浮かぶのは疑問詞ばかりだ。
何故俺はここにいる。
何故俺は見ず知らずの他人であるこいつに殺された。
何故こいつは俺をおぼえていない。
何故こいつにだけ俺がみえるんだ。
俺が―――。
幽霊である自覚など きっと ない。
ただ理解はきっとしているけれど。
だってこんなにも意識がはっきりしていて自分で考え自分で意志をまだ持っているのに
どうやって死んだなんて思えるんだろう。
けれどきっと俺は死んだのだ。
自覚などなくとも。どうしても消えないものがある。
それが俺に、他人事のような視点で己の死を確信付かせるんだ。
どうしても
人は自分の死には疎いもんだ。
どうしてだろう
涙もでてこないんだ。
少年がオートロックを開けている間に外を見上げると、黄色にそまった銀杏の木が堂々と公園の真ん中に植え込んであった。
その時妙に印象に残った景色も、違和感だったのだと知る。
「今日・・・・10月・・何日だって ・・・?」
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | if you were here
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