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2025.07.18 | Comments() | Trackback() |

ネタ帳
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バ ン 。
随分と重々しい音だ。
めいっぱい開かれたそれは勢いあまって壁にぶつかった。
壁に穴が空いたらどうしてくれんだ。
それにしても
なんてタイミングなんだろう。
俺の部屋の扉は今日二回目の悲鳴を上げた。
今度のは
ほんとうの ほんとうに
悲鳴のような音だった。
その大きな音に
ビックリして 大きく開かれたドアを凝視する。
「 あぁ ・・・ ・ 。 渋沢先輩 」
静かに微笑んで首を傾げた。
先輩の顔色を見れば
どれだけの事を知ってここに来たのかなんてすぐ分かった。
それでも努めて 静かに
静かに 微笑んで
渋沢先輩の腕は、開けたときの勢いとは裏腹に
俺を見たままゆっくり 部屋の扉を閉めた。
「今日は遅かったですね。 」
言いながら自分の着ているパーカーの裾に手をかける。
勢いよく部屋に入ってきた先輩に
半分ぐらい脱ぎかけた所でそれを一気に下ろされた。
俺の腕は不自然な所で止まったまま
目の前の人を見上げた。
「 三上に 何した 」
俺の服の裾は千切れんばかりに捕まれている。
今俺がこの人を見ている目線は
酷く冷めているか呆れているかのどちらかだろう。
なんとも捻りのない
予想通りの反応だ。
怒っている顔と
なんの感情も込めていない顔
多分誰もこの人のそんな顔見たこと無い
(見たいとも思わないだろうけど)
俺は そんな顔しか もう 思い出せないぐらい
この人の そういう表情を見てきた
俺しか知らない 先輩
なんだろう? この 変に偏った 優越感
「 先輩がいっつも俺にしてるような事を 」
にこやかに言い放った
と 同時に
頬に鋭い痛みが走る。
俺はその反動で勉強机に思いっ切り体当たりした。
反射的に体を庇ってぶつけた肘の痛みで頭がグラつく。
あぁ 人殴ったりとか
この人数えるぐらいしかしたこと無いんだろうな。
そんな特別が 少し 嬉しい とか
思ってる俺は 変態かな。
先輩は 怒りに声も言葉にならないようだった。
唇を 跡が付くぐらい噛みしめて
ただただ 俺を殴った腕だけが口惜しそうに震えている。
「可愛かったなぁ 三上先輩。」
そんな先輩に 俺は容赦ない
貴方を あおるような言葉 を
吐き捨てて
「 声我慢しすぎて途中で涙目になっちゃって
それが余計 男あおるんだって知ってるんすかね?先輩はー 」
もっと そういう目で 唇で 顔で 俺を 見て
俺を 憎んで
俺を 拒んで
俺がもう二度と立てなくなるまで
俺 を
「 先輩が 好きになっちゃうのも分かりますよ 」
俺の こころ を ころして
目の前を何かが横切った気がした
モノが投げつけられて 破裂する衝撃 と 音。
粉々になってしまったものたちは
俺の机の上に起きっぱなしだった
コップ とか ペンケース とか
ガラス製のペン立てとか
そういうモノが
次々と俺の顔すれすれに投げられた。
投げつけられたそれは壁や窓にあたり
粉々になって部屋中に広がる。
窓に当たった硝子は 耳に痛い感じの ひびが入った音がした。
俺の背中やらなにやらにも少しあたった。
何やらくすぐったいくらいの痛み。
不思議なくらい 懼れはない 。
殴られた頬を片手で押さえ
倒れた不安定な体を肘で支えながら
無気力に先輩を見上げた。
眩しいモノを みているようだ
まぼろしでも みているようだ っ た
「 俺 は -----っ 俺が お前を抱いたのは っ 」
先輩が 苦しそうに顔を歪めて
俺を殴った方じゃない方の腕が何かくしゃくしゃになったものを掴んでる
俺は 信じられないものを見たような目で
もう一度先輩を見上げた 瞬間
その掴んでいたモノが俺の顔に投げつけられた。
「 ---っまつぶし でも 同情で も 」
おかしいなぁ こんな顔 知らない
俺 この人の こんな顔 しらないよ
罵られて ボッコボコに殴られることを予想していた俺の体は
逆に力を失って 竦んでしまった。
とまどった 顔は 口が半開きだ。
金魚の様に ぱくぱくと酸素を欲しがっている。
思いが言葉にならないことが
すごくもどかしいでしょう?
どんな言葉で俺を罵るつもりなの
罵声や嘲笑を浴びせられることが甘い誘惑みたいだ
そんな 泣きそうな顔 いらないんだ
早く ねぇ
そんな顔しないで
言葉に出来なかった思いは
ついには俺に届くことはなくて
小さく舌打ちをして 先輩は部屋を出ていった。
呆然と机に倒れ込んでいた俺の体が
最後の力も失い膝が折れて
散らばった硝子の上にへたり込む。
「 『 同情でも---』 ・・・ ・ なんだよ 」
紡がれなかった言葉が
俺の中で響いている。
でも もう それは なんの意味もないんだ
ヒビの入った半分開いているガラス窓を何気なく見上げた。
夕焼けがほんとうにキレイだった。
写真にとっておきたいと思った けど
思うように動かない。
何がって、カラダ。だから
この瞳にこの胸に
残しておこうと想ったんだ。
薄いカーテンの向こうから微風を感じて。
寒い というよりは 涼しい。
気持ちいい というよりは 忌々しい。
どこまでいつまで
ここにいればいいんだろう ・・・
あなたは帰ってこないって
あの言葉の続きなんて もう一生聞けないって
俺しってるのになぁ ・ ・ ・
パキ。
「 ったー・ ・・・・・ 」
手をついた先にはガラスがあった。
鈍くて 細かい 痛み。
じわじわと広がる紅を
俺は懐かしく感じる。
そんな自分に笑えた。
嘲笑った。
「 欲しがったのは 俺だったんだけどなぁ ・・・ ・ 」
切れてしまった指先を見つめて
独り言のように ぽつりと そう呟く。
そう
何もかも俺が望んだことだった
好きになって欲しい とか
愛されたい とか
愛して欲しい とか
愛したい だとか
俺
馬鹿みたいだ
望んだものは もう見えない
欲張りな俺が 心まで望んでしまった それが
どれだけ
欲張りな俺の手には
もう やさしさだって 残ってない んじゃないの
違う 残ってないんだ
「誠二・・ ・ なんだよコレ ・・・・・ 」
喉が ヒュゥ って 鳴った 。
顔を見ただけで 泣きそうになった
なんで?
「竹巳 ・・・・・ 帰ってくるの 早いよぉ 」
部屋中硝子の破片が飛び散っているこの光景は
普通に帰ってきた竹巳にとっては結構シビアだなぁ とか
呑気なことが頭に浮かんだ。
この後 俺は、硝子を片づけて 切れた指に絆創膏貼って、 腫れた頬にもガーゼを貼って
友だちと 喧嘩したぁー って
甘える予定だったんだけど
しょうがないなぁ って
分かってないんだか
分かってても何も言わないんだか
分からないけど
また怪我したのかよ 馬鹿だなぁ って
頭をなでて-----
「お前・・・・ ・ こんな--・・ ・ 」
先輩に殴られた頬に 少し震えた指が触れた。
俺は 竹巳の顔を見れなかった。
やっぱりお前は なにも聞かないんだなぁ
ちょっと 聞いて欲しかったな
そしたら 馬鹿みたいに 明るく
馬鹿みたいな話が出きるのに
笑ってお前に
「ふられちったよー」
って言えたのにな。
「 ねぇ 竹巳ぃー 見て これー 」
笑って 笑って
床に落ちている しわしわの モノを
竹巳が見える位置までもってく
「・・・・なに? 」
いつもより ずっと優しく声を出す竹巳を
やっぱり俺はまだ見れない。
その優しさがいまは 傷口にいたい よ
俯いたまま 口だけが弧を描く。
「湿布だよ? 湿布。 渋沢先輩がねー
さっき 叩きつけてった の 」
あ やばい
「 おっかしいよねー 湿布とかさぁ 保健室から大量にかっぱらってきたから要らないのに さぁー 」
やばい
やばい
やばい
「 つーか 心配とか してくれた の かなぁ 」
どうしよう
泣きそうだよ
「こんな もの さぁ 」
うれしいとか 思っちゃいけないんだ
好きとか 思っちゃいけないのに
全部壊そうって決めたんだ だから
いまさら こんなモノで
こんな
「渋沢先輩にとって お前は大事な後輩だからなぁ 」
は っと顔を上げる。
見ないようにしていた竹巳と目が合ってしまった。
めいっぱい 笑ってる 竹巳
頬を両手で覆われて
目尻は 少し 濡れてた
「 そりゃ 心配もするよ お前 馬鹿だもん 」
こらえてたものが一気にあふれ出す
ハラハラと 熱いモノがこみ上げて
しゃくり上げて 息が出来ないぐらい 止まらない。
顔がくしゃくしゃになるまで 笑 う
笑った
「 そうかな ぁ 」
「 そーだろ 」
途切れ途切れに 云った 言葉は
ちゃんと 伝わったかな
俺 先輩が 好きだったよ
その みんなをまとめ上げている人望 だとか
ゴールキーパー特有の大きくてごつごつした手 だとか
あったかくって やさしい 目 だとか
落ち着いた 音楽みたいなしゃべる 声 だとか
怒った 顔も
虫けらでも見るように俺を見下した 顔も
泣きそうな
悔しそうな
感情を持て余した 顔も
三上先輩を好きな 先輩も
好きだったよ。
あなたと
あなたの隣りにいた 時間が
「 俺 ちゃんと 好きだったよ 」
愛していました。
「 すごく すごく 好 」
君の袖に縋り付き
胸に顔を押し当てて泣いている そのすがたを
お願いです 君だけは
どうか 憶えていて
俺が 馬鹿だったこと
俺は 間違ってはいなかった と 君だけは
俺の愚かさを 赦さないで
もう沈んでしまった夕陽の空からふく風が
体中の傷に しみて
ただ 竹巳のシャツの匂いだけが
俺の こころを なでてた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
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