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2025.07.18 | Comments() | Trackback() |




「先輩は・・・何も言わないってどう思います?」






いきなり何を言い出したんだこの犬は

と思った。




鼻で笑い飛ばす勢いで流そうかとあいつの顔を見た時。


こいつは・・・

今自分がどういう顔をしているか
分かっているんだろうか。



どうにも言葉が出なくて

戸惑った素振りをしないように目線を流した。

口は 「は?」 の名残で
半開きになったままだ。



今考えたら相当間抜けな顔。

考えるとむかつくんで考えない。






声を紡ぐように空気を裂いて



俺は一言、 「知らない」 と言った。







言った後に、今の言い草はちょっと
アレだったかも知れない、と。

一息ついて 「俺は」 と付けた。







何があったかなんて、
俺は知らない。




その言葉の重さも、


その言葉の本当の意味も、





俺は知らない。






そんな俺が、今バカバカしく
泡みたいな言葉かけたって。




こいつは 多分 心を閉ざす。











そう考えると、




俺の頭はなんだか 後ろのあたりが



ガンガン鳴った。










++***++






朝の静かな空気がざわついて仕方がない。


それ程、藤代が倒れたというのは
部員にとって大事だった。


分かる・・・。



あいつは誰よりも馬鹿で。
誰よりもうるさかった。



逆にそういうあいつだから って事だ。






「大袈裟だな・・・。救急車なんて」





背後から聞こえた声に、
俺は言い難い違和感が走った。


それは、聞き慣れた声のはずだった。





「『藤代が』倒れたからだろ。そりゃ・・・驚く」




振り返って、確認した。


当たり前なんだが。

渋沢だった。




「お前も相当驚いてたな」




少し苦い笑みを浮かべて、
快活に言う。


俺はそんなこいつの態度が気に入らない。

むしろ、爪で引っ掻くような
怒りを憶えた。



「そういうお前は全く驚いてないな」



諫めるつもりは無かったけど。


真っ直ぐに見やる。

目線だけ上を射抜いた。



最初に憶えた違和感 は これか。




おかしい。

こいつはー・・・。





「驚いて無い訳じゃない。ただ・・・、最近藤代の様子がおかしかったからな。
 前から少し気になっていたんだ。」





「・・・いつから?お前よく見てたな」










言っている事はおかしくはない。



なのに








俺にはあの苦い笑みが、



どうにも焼き付いて 離れなかった。










++***++






「ご迷惑をおかけしました!」





昼休みにいきなり頭を下げられて

大声で謝罪。


何ともこいつらしいと言えばらしい。





「・・・別に。迷惑かけられた憶えはねぇけど」



「じゃぁ心配?」



調子にのるな、と頭を軽く叩いた。

笑いながら藤代は頭を上げた。



病院行っても馬鹿は直ってないな・・・。



失礼な話かもしれないが
俺は顔をゆるませた。




「・・・あぁ!!そうだ先輩!!」





「あ?」









にっこり。笑って。



















「先輩、渋沢先輩と付き合ってるんですか?」





















持っていた缶が、



鈍く寂しげな音を立てた。










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2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム

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