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ネタ帳
バ ン 。
随分と重々しい音だ。
めいっぱい開かれたそれは勢いあまって壁にぶつかった。
壁に穴が空いたらどうしてくれんだ。
それにしても
なんてタイミングなんだろう。
俺の部屋の扉は今日二回目の悲鳴を上げた。
今度のは
ほんとうの ほんとうに
悲鳴のような音だった。
その大きな音に
ビックリして 大きく開かれたドアを凝視する。
「 あぁ ・・・ ・ 。 渋沢先輩 」
静かに微笑んで首を傾げた。
先輩の顔色を見れば
どれだけの事を知ってここに来たのかなんてすぐ分かった。
それでも努めて 静かに
静かに 微笑んで
渋沢先輩の腕は、開けたときの勢いとは裏腹に
俺を見たままゆっくり 部屋の扉を閉めた。
「今日は遅かったですね。 」
言いながら自分の着ているパーカーの裾に手をかける。
勢いよく部屋に入ってきた先輩に
半分ぐらい脱ぎかけた所でそれを一気に下ろされた。
俺の腕は不自然な所で止まったまま
目の前の人を見上げた。
「 三上に 何した 」
俺の服の裾は千切れんばかりに捕まれている。
今俺がこの人を見ている目線は
酷く冷めているか呆れているかのどちらかだろう。
なんとも捻りのない
予想通りの反応だ。
怒っている顔と
なんの感情も込めていない顔
多分誰もこの人のそんな顔見たこと無い
(見たいとも思わないだろうけど)
俺は そんな顔しか もう 思い出せないぐらい
この人の そういう表情を見てきた
俺しか知らない 先輩
なんだろう? この 変に偏った 優越感
「 先輩がいっつも俺にしてるような事を 」
にこやかに言い放った
と 同時に
頬に鋭い痛みが走る。
俺はその反動で勉強机に思いっ切り体当たりした。
反射的に体を庇ってぶつけた肘の痛みで頭がグラつく。
あぁ 人殴ったりとか
この人数えるぐらいしかしたこと無いんだろうな。
そんな特別が 少し 嬉しい とか
思ってる俺は 変態かな。
先輩は 怒りに声も言葉にならないようだった。
唇を 跡が付くぐらい噛みしめて
ただただ 俺を殴った腕だけが口惜しそうに震えている。
「可愛かったなぁ 三上先輩。」
そんな先輩に 俺は容赦ない
貴方を あおるような言葉 を
吐き捨てて
「 声我慢しすぎて途中で涙目になっちゃって
それが余計 男あおるんだって知ってるんすかね?先輩はー 」
もっと そういう目で 唇で 顔で 俺を 見て
俺を 憎んで
俺を 拒んで
俺がもう二度と立てなくなるまで
俺 を
「 先輩が 好きになっちゃうのも分かりますよ 」
俺の こころ を ころして
目の前を何かが横切った気がした
モノが投げつけられて 破裂する衝撃 と 音。
粉々になってしまったものたちは
俺の机の上に起きっぱなしだった
コップ とか ペンケース とか
ガラス製のペン立てとか
そういうモノが
次々と俺の顔すれすれに投げられた。
投げつけられたそれは壁や窓にあたり
粉々になって部屋中に広がる。
窓に当たった硝子は 耳に痛い感じの ひびが入った音がした。
俺の背中やらなにやらにも少しあたった。
何やらくすぐったいくらいの痛み。
不思議なくらい 懼れはない 。
殴られた頬を片手で押さえ
倒れた不安定な体を肘で支えながら
無気力に先輩を見上げた。
眩しいモノを みているようだ
まぼろしでも みているようだ っ た
「 俺 は -----っ 俺が お前を抱いたのは っ 」
先輩が 苦しそうに顔を歪めて
俺を殴った方じゃない方の腕が何かくしゃくしゃになったものを掴んでる
俺は 信じられないものを見たような目で
もう一度先輩を見上げた 瞬間
その掴んでいたモノが俺の顔に投げつけられた。
「 ---っまつぶし でも 同情で も 」
おかしいなぁ こんな顔 知らない
俺 この人の こんな顔 しらないよ
罵られて ボッコボコに殴られることを予想していた俺の体は
逆に力を失って 竦んでしまった。
とまどった 顔は 口が半開きだ。
金魚の様に ぱくぱくと酸素を欲しがっている。
思いが言葉にならないことが
すごくもどかしいでしょう?
どんな言葉で俺を罵るつもりなの
罵声や嘲笑を浴びせられることが甘い誘惑みたいだ
そんな 泣きそうな顔 いらないんだ
早く ねぇ
そんな顔しないで
言葉に出来なかった思いは
ついには俺に届くことはなくて
小さく舌打ちをして 先輩は部屋を出ていった。
呆然と机に倒れ込んでいた俺の体が
最後の力も失い膝が折れて
散らばった硝子の上にへたり込む。
「 『 同情でも---』 ・・・ ・ なんだよ 」
紡がれなかった言葉が
俺の中で響いている。
でも もう それは なんの意味もないんだ
ヒビの入った半分開いているガラス窓を何気なく見上げた。
夕焼けがほんとうにキレイだった。
写真にとっておきたいと思った けど
思うように動かない。
何がって、カラダ。だから
この瞳にこの胸に
残しておこうと想ったんだ。
薄いカーテンの向こうから微風を感じて。
寒い というよりは 涼しい。
気持ちいい というよりは 忌々しい。
どこまでいつまで
ここにいればいいんだろう ・・・
あなたは帰ってこないって
あの言葉の続きなんて もう一生聞けないって
俺しってるのになぁ ・ ・ ・
パキ。
「 ったー・ ・・・・・ 」
手をついた先にはガラスがあった。
鈍くて 細かい 痛み。
じわじわと広がる紅を
俺は懐かしく感じる。
そんな自分に笑えた。
嘲笑った。
「 欲しがったのは 俺だったんだけどなぁ ・・・ ・ 」
切れてしまった指先を見つめて
独り言のように ぽつりと そう呟く。
そう
何もかも俺が望んだことだった
好きになって欲しい とか
愛されたい とか
愛して欲しい とか
愛したい だとか
俺
馬鹿みたいだ
望んだものは もう見えない
欲張りな俺が 心まで望んでしまった それが
どれだけ
欲張りな俺の手には
もう やさしさだって 残ってない んじゃないの
違う 残ってないんだ
「誠二・・ ・ なんだよコレ ・・・・・ 」
喉が ヒュゥ って 鳴った 。
顔を見ただけで 泣きそうになった
なんで?
「竹巳 ・・・・・ 帰ってくるの 早いよぉ 」
部屋中硝子の破片が飛び散っているこの光景は
普通に帰ってきた竹巳にとっては結構シビアだなぁ とか
呑気なことが頭に浮かんだ。
この後 俺は、硝子を片づけて 切れた指に絆創膏貼って、 腫れた頬にもガーゼを貼って
友だちと 喧嘩したぁー って
甘える予定だったんだけど
しょうがないなぁ って
分かってないんだか
分かってても何も言わないんだか
分からないけど
また怪我したのかよ 馬鹿だなぁ って
頭をなでて-----
「お前・・・・ ・ こんな--・・ ・ 」
先輩に殴られた頬に 少し震えた指が触れた。
俺は 竹巳の顔を見れなかった。
やっぱりお前は なにも聞かないんだなぁ
ちょっと 聞いて欲しかったな
そしたら 馬鹿みたいに 明るく
馬鹿みたいな話が出きるのに
笑ってお前に
「ふられちったよー」
って言えたのにな。
「 ねぇ 竹巳ぃー 見て これー 」
笑って 笑って
床に落ちている しわしわの モノを
竹巳が見える位置までもってく
「・・・・なに? 」
いつもより ずっと優しく声を出す竹巳を
やっぱり俺はまだ見れない。
その優しさがいまは 傷口にいたい よ
俯いたまま 口だけが弧を描く。
「湿布だよ? 湿布。 渋沢先輩がねー
さっき 叩きつけてった の 」
あ やばい
「 おっかしいよねー 湿布とかさぁ 保健室から大量にかっぱらってきたから要らないのに さぁー 」
やばい
やばい
やばい
「 つーか 心配とか してくれた の かなぁ 」
どうしよう
泣きそうだよ
「こんな もの さぁ 」
うれしいとか 思っちゃいけないんだ
好きとか 思っちゃいけないのに
全部壊そうって決めたんだ だから
いまさら こんなモノで
こんな
「渋沢先輩にとって お前は大事な後輩だからなぁ 」
は っと顔を上げる。
見ないようにしていた竹巳と目が合ってしまった。
めいっぱい 笑ってる 竹巳
頬を両手で覆われて
目尻は 少し 濡れてた
「 そりゃ 心配もするよ お前 馬鹿だもん 」
こらえてたものが一気にあふれ出す
ハラハラと 熱いモノがこみ上げて
しゃくり上げて 息が出来ないぐらい 止まらない。
顔がくしゃくしゃになるまで 笑 う
笑った
「 そうかな ぁ 」
「 そーだろ 」
途切れ途切れに 云った 言葉は
ちゃんと 伝わったかな
俺 先輩が 好きだったよ
その みんなをまとめ上げている人望 だとか
ゴールキーパー特有の大きくてごつごつした手 だとか
あったかくって やさしい 目 だとか
落ち着いた 音楽みたいなしゃべる 声 だとか
怒った 顔も
虫けらでも見るように俺を見下した 顔も
泣きそうな
悔しそうな
感情を持て余した 顔も
三上先輩を好きな 先輩も
好きだったよ。
あなたと
あなたの隣りにいた 時間が
「 俺 ちゃんと 好きだったよ 」
愛していました。
「 すごく すごく 好 」
君の袖に縋り付き
胸に顔を押し当てて泣いている そのすがたを
お願いです 君だけは
どうか 憶えていて
俺が 馬鹿だったこと
俺は 間違ってはいなかった と 君だけは
俺の愚かさを 赦さないで
もう沈んでしまった夕陽の空からふく風が
体中の傷に しみて
ただ 竹巳のシャツの匂いだけが
俺の こころを なでてた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
部活も終わった
放課後
ズカズカと俺は寮のろうかを不機嫌丸出しで歩く。
途中でときどき出逢う下級生は、
俺の顔を見るやいなや隠れるようにして挨拶してくる。
それが俺のイライラをいっそう強くした。
ある部屋の扉の前でとまる。
すぅ っと深呼吸して気持ちを落ち着けた。
ガチャリ と重たくドアが開いた。
「あれ?三上先輩?」
間抜けな声を出して
これまた間抜けな顔で出迎えたのは藤代だった。
俺の訪問はほんとうに予想外だったようで
ベットの上で雑誌を読んでいた。
「お前・・・・・・足怪我したって・・・」
「あーーー。大したことないっすよー軽い捻挫です!捻挫!」
それを聞いた瞬間
がくーーーーーーーーーーっと膝の力が抜ける。
俺は軽くその場に座り込んだ。
「おま・・・・・・ほんと ・・・ あーー・・・ 」
馬鹿馬鹿しすぎて怒鳴る気も起きない。
「え?何々?俺今日体育の授業で捻挫したから部活でれないって伝えましたけどー」
「いや ・・・・ うん まぁ 黙れ・・・ 」
よくある話だな。
足を怪我したとは聞いたけど軽い捻挫だなんて聞いてない。
というか俺の所まで伝わってこなかった。
俺はただ藤代が来ない理由を下級生に尋ねると
どうも足を怪我したようだ
とか
包帯を巻いてた
とか
かなり派手にやってた
とか
そんな曖昧な返事しか来ず
誰に聞いた?って聞くと
さぁ?
としか帰ってこない始末。
あの藤代といっつも一緒にいる奴は今日めずらしく休みだったし。
俺はゆらゆらする不安をどうにかするため
わざわざ藤代の部屋まで自分で出向いたのだ。
「しんじらんねーなお前・・・。仮にもサッカー部の人間が授業でそんなちんけな怪我すんなよ・・・」
そう言いながら藤代のいるベットの方へと移動した。
軋む音とともにそこに腰掛けると
藤代は少し姿勢を正して雑誌を脇に置いた。
「ちょっと 色々考えてたらぼけーっとしちゃって~」
へらへら笑う。
あぁ もう ほんとしょうがねぇなぁ こいつ。
俺もなんでこんな奴の心配してんのかな。
「何考えることがあんだよお前」
俺も皮肉っぽくへらへら笑いながら
軽く
軽く その言葉を発してしまった
あとで 死ぬほど後悔することも 知らないで
「三上先輩をどうやって犯そうかなーー と思って。 」
いつものように 鈴を振るような声で
目の前のこいつは にっこり 微笑んだ。
笑いかけた顔が ひきつる。
「 はぁ? お 前なぁー。俺を犯そうなんて100万年はや」
こおった空気が いたい
なんだこれ
なんだこれ
いま こいつ 笑顔で なに言った ?
「あーそういう反応ですか~。いや、いたってかなり本気ですよ。これでも」
自分の膝に頬杖をついて
目をほそめて笑う。
まるでどうってことないような声で快活に喋る。
こわい
だれだ これ
「な に ・・・ ・ 言って」
「だって渋沢先輩 先輩のこと大好きなんですもん」
腕をひっぱられて
俺の視界が反転する
ベットのスプリングが激しく歪んだ。
こわい
こわくて
声もでない
「それにね」
また
困ったように笑いながら
「 俺も 先輩のこと大好きなんだよね」
俺は
目を 見開く
「 先輩がすき。 でも 俺は渋沢先輩が一番好き。
なのに
先輩の一番も 渋沢先輩の一番も
俺じゃない なんて 」
ぽた
ぽた
生温かいしずくが
ほほに伝う
「 俺 たえられないよぉ そんなの って ---- こんなことって さぁ 」
押さえつけられている腕に爪が食い込む。
鈍い痛みに顔をしかめるけど
俺は
「 だから 壊すんだ ぜんぶ壊すんだ
ねぇ?
わかるでしょ? 先輩 」
俺 は
なんにもわかってないよ 藤代
おれは なんにも わかってなかっ た
お前の痛みとか
闇とか
俺の些細な行動も
俺がお前と過ごしてた時間も
お前をズタズタにする材料にすぎなかったんだ
そうだったんだ
お前の笑った顔がみたくて
そんな自分悔しいから認めたくなかったけど
昼休み
他のダチよりも優先して会ってたあの瞬間も
お前にとっては 地獄 だったの ?
「 ・・・ いいよ。 お前の気がすむなら 壊せよ 」
その大きい目から次々とこぼれ落ちる涙を
頬を撫でるようにすくった。
泣きそうになる自分がいるけど
泣いてはいけない気がした
今は 俺が 強くなくてはいけないところだ
顔を不器用に歪めて 無理にでも笑って
唇を噛みしめる
藤代は俺が言葉を発した瞬間 ビクッと 体を震わせた。
涙はやっぱり止まることは なくて
ごめんなさい
ごめんなさい と
あいつは 俺に謝りつづけてた。
++***++
もうあたりが暗くなり始めた夕方。
廊下の窓から見えるそのオレンジと紫が混ざったいろ。
もう どこもかしこも痛いけど
いつもより酷く綺麗に感じる。
来るときには短く感じたこの廊下が
今はどこまでも続いてるような気がするなぁ
体が重い。
「三上・・・?」
聞き慣れた声に顔を正面に戻すと
キョトンとした顔の渋沢が立っていた。
なんだか凄く懐かしい 気がする
お前が
なつかしい
ゆっくりと 歩み寄って
肩に顔をうずめた。
軽く 渋沢に体重をあずける
「三上 ? どうかしたのか ・・・ ?」
やさしい声が聞こえるなぁ。
あぁ。 うん。
俺 この声がすきだ。
何にも言わなくても
抱きしめてくれるこの腕が好きだ。
わかっていても言わないでいてくれる
こいつが 好きだ。
いまは もう ただ
俺の体中 渋沢の匂いに染まればいいのに とか
そんな下らないことを思って
少し 泣いた 。
そうだなぁ もう あいつが
俺に笑いかけることは ないんだなぁ
そう考えると、
俺の頭はなんだか 後ろのあたりが
ガンガン鳴って
涙が とまらなかった
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
あぁ なんてみにくい かんじょう
なんて きたない かんじょう
きみに おしつけようとしているのか
おれは
++***++
藤代から渋沢と付き合っているのを知っていると告げられたあの日から
何となく俺は藤代をまじまじと見れないでいた。
藤代はかわらない。
態度も声色も
まるであの出来事自体なかったみたいに
相変わらず三上先輩三上先輩ってうるさい。
藤代が
あいつに憧れてたのは知ってる。
つーか
あいつの態度とか目線とか表情とか見てて
多分もしかしたら
そーゆー意味で好きなんじゃないかとか
ちょっと思った時もあって
あいつが初めて部活休んだ日
もしかしたら あいつ ホントに
俺達のことにも気付いてそれで
って 少し不安になって
(いや不安になるとか筋違いなのかもしれないけど)
わざわざアイツを人気の無い所までひっぱってった
そしたらあいつ、すごく無理して笑うから
あいつ 渋沢みたいな顔して
すごく困ったように笑うから
イライラして 無理して笑うな って 少し 怒った
俺は渋沢と付き合ってること 恥ずかしいとは思ってない
でも 男は社会的な生き物だ
世間一般に埋もれていたい気持ちもある
失ってしまうかも知れない色々なモノをすべて無くす勇気が俺にはなくて
そんな俺の中途半端な気持ちが伝わっていたのかな
俺はいままで一度も
渋沢に抱かれたことも
抱いたこともない
(いや。うん。むしろ抱きたいとか 思わないけど)
俺がときどき 二人きりの部屋の中
誘うような目で見ると
渋沢は困ったように 笑うんだ
失いたくない ぜんぶ
情けないったらないな ほんと
++***++
「いたたたたたたたた!!」
「じっとしてろ!」
窓の外を見れば
同級生達がまだ騒ぎながらサッカーをしている。
俺はというと、鬼竹巳に足に湿布を貼られ、包帯を巻かれていた。
清純な雰囲気と
微かな薬品の匂い
ちょうど先生がいなくて勝手に棚から色々とりだしている。
場所とかも おぼえちゃったなぁ
とか思いながら
「お前はなんでこう・・・ちょこちょこ怪我するかなぁ・・・」
包帯を手慣れた手つきでまきながら竹巳は深い溜息をついた。
そうだなぁ俺はよく怪我するなぁ
そのたんびに竹巳はこうして湿布とか絆創膏とかはってくれるけど
「いやぁーほら!サッカー部のエースの意地をだな!」
「あーそーですねー凄いですねー。オラ おわった ぞ ! 」
ぞ の所で竹巳は包帯止めの上を勢いよくはたいた。
「ぃいっっ----っ---!!」
涙目になりながら俺は 包帯や湿布などを棚に戻す竹巳の後ろ姿を見ていた。
竹巳の背中をとおりぬけて はるかとおく
別の風景がみえるようだ。
俺がかわっても
かわりはてても
お前だけは どうか
「竹巳 今日鈴木とかと遊び行くんだよなー。どれくらいに帰る?」
「あーーーうん。 多分7時くらいかな?」
片づけ終わった竹巳が振り返る
俺は
笑っていただろうか
「 気を付けてな。 」
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
「 は? 」
何か・・・もっとこう・・・
言えたんじゃないだろうか。
思わず落とした缶を勿体ないと
思う余裕さえ無かった。
ただ、呆然と見つめた。
あいつは笑顔のままだった。
「別に隠さなくていいですよ!俺知ってますから」
心なしか、最後の言葉を発する時
藤代の声が低くなったような気がした。
「----・・・・・・」
別に・・・隠すような事じゃないけど・・・。
何故かこいつの笑顔に圧迫感を憶え
喉からうまく声が出ない。
って、いうか。
缶を落とした時点で「ハイそうですよ」って
言ってるようなもんだろ・・・。
「-------ぁ」
何か言おうとした瞬間、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「三上。藤代も一緒じゃないか」
「渋沢・・・」
不意をつかれて一瞬焦る。
が、何とか悟られないように明るく応えた。
・・・つもりなんだが・・・
軽く手を上げながらゆっくりと
こちらに歩み寄る。
ふと藤代を見ると、
・・・寒気が した。
嫌悪、とも、無気力、とも言い難い。
とても とても 冷静で
とても とても つめたい 目
ただ、間違いなく、藤代は渋沢を見ていた。
「もうそろそろ昼休み終わるぞ。教室戻らなくていいのか?」
「お前は?」
聞き返すと渋沢は、
ちらっと藤代を見て続けた。
「俺はちょっと藤代に用あるから。後から行くよ」
だから、さき行ってろって笑顔で
渋沢は俺の背中を押した。
俺は藤代を見やる。
あいつは俺の視線に気がつくと
いつもの顔で笑った。
俺はそれを勝手に「また今度」って言ってると解釈して、
少し重たい空気を感じながら教室に戻った。
++***++
「授業・・・始まってますよ」
驚くほど冷めた声で
からかう様に言う。
それがこの人の逆輪にふれる事など判っていた。
先輩は周りに人気がなくなったのを空気で確認して
一瞬、俺をすごい形相で睨んだ。
「どういうつもりだ」
「何がですか?」
にっこり笑って言うと
思いっきり壁に叩き付けられる。
少々の痛みを感じていると
頭の両側に腕が見えた。
正面には顔。
「三上には関係ない」
あまりにもおかしくって吹き出してしまう。
「・・・関係ない?さっきの言葉、そっくりそのまま返しますよ先輩」
真っ直ぐ彼を見ると
腕を強引に振り払った。
「どういうつもりで、俺を抱いたんですか」
「-----------」
先輩の 表情が引きつる。
おかしくって 失笑する
「暇つぶし?」
皮肉のように片頬を歪ませて
息があたるぐらいまで顔を近づけた。
嫌な奴だとは思ってたけど
俺ってこんなに嫌な奴だったんだ・・・
怒りと皮肉と後悔と
いろんなモノが交差する。
次の瞬間、喉元に圧迫を感じた。
爪が食い込む。
でも、息はできる。
「理由。言って欲しいのか?」
冷たくて
凍り付くような
でも、その奥に秘めた怒りがある
目が笑っていない。
首の痛みが引いてゆく。
ゆっくりと手を離すと
先輩は振り返らずに校舎へ消えた。
『 生かさず殺さず 』
何故か俺は
そんな言葉を思い出していた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
「先輩は・・・何も言わないってどう思います?」
いきなり何を言い出したんだこの犬は
と思った。
鼻で笑い飛ばす勢いで流そうかとあいつの顔を見た時。
こいつは・・・
今自分がどういう顔をしているか
分かっているんだろうか。
どうにも言葉が出なくて
戸惑った素振りをしないように目線を流した。
口は 「は?」 の名残で
半開きになったままだ。
今考えたら相当間抜けな顔。
考えるとむかつくんで考えない。
声を紡ぐように空気を裂いて
俺は一言、 「知らない」 と言った。
言った後に、今の言い草はちょっと
アレだったかも知れない、と。
一息ついて 「俺は」 と付けた。
何があったかなんて、
俺は知らない。
その言葉の重さも、
その言葉の本当の意味も、
俺は知らない。
そんな俺が、今バカバカしく
泡みたいな言葉かけたって。
こいつは 多分 心を閉ざす。
そう考えると、
俺の頭はなんだか 後ろのあたりが
ガンガン鳴った。
++***++
朝の静かな空気がざわついて仕方がない。
それ程、藤代が倒れたというのは
部員にとって大事だった。
分かる・・・。
あいつは誰よりも馬鹿で。
誰よりもうるさかった。
逆にそういうあいつだから って事だ。
「大袈裟だな・・・。救急車なんて」
背後から聞こえた声に、
俺は言い難い違和感が走った。
それは、聞き慣れた声のはずだった。
「『藤代が』倒れたからだろ。そりゃ・・・驚く」
振り返って、確認した。
当たり前なんだが。
渋沢だった。
「お前も相当驚いてたな」
少し苦い笑みを浮かべて、
快活に言う。
俺はそんなこいつの態度が気に入らない。
むしろ、爪で引っ掻くような
怒りを憶えた。
「そういうお前は全く驚いてないな」
諫めるつもりは無かったけど。
真っ直ぐに見やる。
目線だけ上を射抜いた。
最初に憶えた違和感 は これか。
おかしい。
こいつはー・・・。
「驚いて無い訳じゃない。ただ・・・、最近藤代の様子がおかしかったからな。
前から少し気になっていたんだ。」
「・・・いつから?お前よく見てたな」
言っている事はおかしくはない。
なのに
俺にはあの苦い笑みが、
どうにも焼き付いて 離れなかった。
++***++
「ご迷惑をおかけしました!」
昼休みにいきなり頭を下げられて
大声で謝罪。
何ともこいつらしいと言えばらしい。
「・・・別に。迷惑かけられた憶えはねぇけど」
「じゃぁ心配?」
調子にのるな、と頭を軽く叩いた。
笑いながら藤代は頭を上げた。
病院行っても馬鹿は直ってないな・・・。
失礼な話かもしれないが
俺は顔をゆるませた。
「・・・あぁ!!そうだ先輩!!」
「あ?」
にっこり。笑って。
「先輩、渋沢先輩と付き合ってるんですか?」
持っていた缶が、
鈍く寂しげな音を立てた。
2006.02.12 | Comments(0) | Trackback() | モラトリアム
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